医療法人の節税は役員報酬と退職金の決め方から|考え方の基本
「医療法人 節税」と調べると、いろいろな方法が出てきます。まずは、あなたの報酬と退職金の決め方から見直すのが近道です。
この記事の要点
- 節税の土台は、報酬と退職金を決まりどおりに払い、経費(損金)にすることです。
- 報酬の額は、法人の税と、あなたの税・社会保険料の合計で考えます。
- 退職金は受け取る側の税が軽い一方、高すぎる部分は損金に入りません。
医療法人の節税は、どこから考える?
役員報酬と退職金を、決まりどおりに決めて払うことからです。決まりを外れた分は、払っても損金に入りません。
法人の税は、収入から経費を引いた利益にかかります。税の計算で差し引ける経費を、損金といいます。
理事長に払う報酬と退職金は、決まりを守れば損金に入ります。守らないと、払ったのに差し引けず、法人の税が増えます。
- 役員報酬は、毎月同じ額で払うのが基本です。決めた総額を超える分や、仕事に比べて高すぎる分は損金に入りません。
- 退職金は、実際に退職し、額が高すぎないことが前提です。額は社員総会などで決めます。
報酬の決め方は、役員報酬の決め方と過大の基準の記事で解説しています。
退職金の条件は、理事長の退職金の基本の記事をご覧ください。
役員報酬は、高いほど節税になる?
一概には言えません。法人の税は減りますが、あなたの所得税・住民税が増え、社会保険料も増えることがあります。
報酬は法人の損金になるので、上げるほど法人の利益は減ります。その分、受け取るあなたの所得が増えます。
個人の所得税は、所得が多いほど税率が上がる仕組みです。税率は5%から45%の7段階に分かれています。
法人の事業所は、厚生年金への加入が義務です。報酬を受け取る役員も加入し、保険料は報酬に応じて決まります。ただし、保険料の計算に使う報酬の額には上限があります。
健康保険は、承認を受けて歯科医師国保に入り続けている場合など、扱いが異なります。
つまり、報酬を上げて法人の税を減らしても、あなたの側の負担が増えることがあります。法人と個人を合わせた合計で考えるのが基本です。
損金に入れるなら、報酬は事業年度の初めに決める
事業年度の途中で上げた分は、原則として損金に入りません。
報酬を損金に入れたまま変えるなら、事業年度の開始から3か月を経過する日までに決めます。
手順は役員報酬の変更手続きの記事をご覧ください。
報酬を低くして、法人にお金を残せば得?
得とは限りません。残した利益には法人の税がかかり、医療法人は配当で取り出すこともできません。
医療法は、医療法人が利益(剰余金)を配当することを禁じています。株式会社のように、配当で受け取る道はありません。
厚生労働省の資料は、利益は施設の整備や職員の給与の改善に充て、残りは積み立てて残すと説明しています。
法人に残したお金は、設備や職員のために使うか、のちに報酬や退職金として払うことになります。
報酬を下げると、退職金の目安も下がる
退職金の目安は、退職する直前の報酬月額をもとに計算する方法が広く使われています。
目安は「退職直前の報酬月額×年数×倍率」です。報酬を下げすぎると、その分だけ目安も下がります。
くわしくは医療法人の退職金の相場の記事をご覧ください。
詳しく:持分ありの法人で気をつけること
- 持分ありの法人では、払戻しや相続のときの額が、法人の財産をもとに決まります。
- 法人に残したお金が増えるほど、その額も大きくなることがあります。
- 持分があるかは、法人の基本の決まりで確かめられます。くわしくは理事長が亡くなったときの記事をご覧ください。
退職金で受け取ると、なぜ税金が軽い?
一定の額を差し引いた残りの半分だけを、ほかの所得と分けて計算するためです。役員5年以下の期間分は半分にしません。
国税庁は、退職金は長年の勤労に報いて一度に払われるため、税の負担が軽くなるよう配慮されていると説明しています。
受け取る側では、退職金は「退職所得」という区分です。計算は次のとおりです。
- 退職金から、勤めた年数に応じた額(退職所得控除額)を差し引きます。20年以下は1年40万円、20年を超える年は1年70万円です。
- 残りを2分の1にします。
- その額に、ほかの所得と分けて税率を掛けます。
役員として勤めた年数が5年以下の人は、その期間の退職金に2分の1の計算がありません。
年数は、医療法人の役員になってからです。個人で開業していた期間は、入らないと考えられます(歯科医院の院長の退職金の記事)。
計算例(架空の数字)
最終の報酬月額100万円、理事長として20年、倍率2.0と置いた例です。退職金は100万円×20年×2.0で4,000万円になります。
20年なので、差し引く額は40万円×20年で800万円です。4,000万円から引くと3,200万円です。
その半分の1,600万円に、税率を掛けます。4,000万円は計算を見せるための数字で、相場や上限ではありません。
法人の側では、退職金は原則として、社員総会などで額が決まった事業年度の損金です。ただし、高すぎる(税法の言葉で「不相当に高額」)と判断された部分は損金に入りません。
報酬と退職金の配分は、どう考える?
毎月の報酬で受け取るか、法人に残して退職金で受け取るかで、税と手取りが変わります。どちらが有利かは、額と年数で変わります。
報酬で受け取れば、その年に法人の損金になり、あなたの所得税などがかかります。
法人に残せば、その年は法人の税がかかります。退職金として払う年には、その退職金が損金になり、受け取る側は上の計算になります。
どの配分がよいかは、報酬の額、退職までの年数、法人の利益で変わります。顧問税理士と、法人と個人を合わせた額で試算しておきましょう。
経費を増やしても、手元のお金は減ります
- 経費を100万円増やしても、減る税は100万円より少なくなります。
- 税を減らすためだけの支出は、手元のお金を減らすことになります。
まとめ
- 節税の土台は、役員報酬と退職金を決まりどおりに払い、経費(損金)にすることです。
- 報酬の額は、法人の税と、あなたの税・社会保険料の合計で考えます。法人に残した利益は、配当では取り出せません。
- 退職金は受け取る側の税が軽い一方、高すぎる部分は損金に入りません。
次の事業年度の報酬を決める前に、下の点を顧問税理士と確かめておきましょう。
確認すること
- 今の報酬を、事業年度の初めの3か月以内に決めているか
- 社員総会で決めた報酬の総額を、超えていないか
- 報酬を変えたとき、法人と個人を合わせた税・社会保険料を試算したか
- 退職金規程に、計算式(退職直前の報酬月額×年数×倍率)を書いているか
- 理事長として何年目か(5年以下か、20年を超えるか)
出典・参考資料(クリックで開く)
この記事は2026年11月時点の情報にもとづいています。
- 国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 No.2260 所得税の税率
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 退職金と税
- 国税庁 No.5208 役員の退職金の損金算入時期
- 国税庁 法人税基本通達9-2-27の3(功績倍率法)
- 日本年金機構 適用事業所と被保険者
- 日本年金機構 厚生年金保険の保険料
- 日本年金機構 疑義照会回答(厚生年金保険 適用)
- 日本年金機構 標準報酬の上限と下限
- 日本年金機構 国民健康保険組合の加入手続きについて(適用除外承認)
- 厚生労働省 医療法人の剰余金の使途の明確化について(医療法第54条)
- 厚生労働省 第27回社会保障審議会医療部会 資料1(医療法第54条の解説)
- 厚生労働省 医政局委託 持分によるリスクと持分なし医療法人への移行
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