医療法人の理事長が死亡しても法人は原則残る|後任と死亡退職金
もしあなたが急に亡くなったら、医療法人や診療所、ご家族はどうなるのでしょうか。お子さんが小さいと、気になるところです。
この記事の要点
- 理事長が亡くなっても、医療法人は原則として残ります。
- 続けるには、新しい理事長(原則 医師・歯科医師)と院長(歯科医師)が要ります。
- 遺族への死亡退職金は原則として相続税の対象で、一部は非課税です。
目次(7項目)
理事長が亡くなると、医療法人はなくなる?
原則として、なくなりません。理事長の死亡は、医療法が定める解散の理由に入っていないためです。
医療法が定める解散の理由は、社員総会の決議や合併、破産などです。
社員総会は、社団の医療法人でいちばん上の意思決定の場です。社員はその構成員で、職員のことではありません。
社員が理事長1人だけの法人は注意
- 社員が1人もいなくなることも、医療法の解散の理由の一つです。
- 社員が理事長1人だけだと、亡くなった時点で社員がいなくなります。
新しい理事長は、だれがどう決める?
理事会で、理事の中から選びます。原則として、医師か歯科医師の理事から選びます。
理事会は、理事全員で法人の業務を決める会議です。
理事長が亡くなると、理事も1人減ります。理事の定数の5分の1を超えて欠けたら、1か月以内に補充しなければなりません。
たとえば理事3人の法人で1人欠けると、3分の1が欠け、これに当たります(例)。
ほかに医師・歯科医師の理事がいない場合もあります。その場合も、知事の認可を受けて、理事である配偶者などが理事長に就けることがあります。
理事長が決まらず、業務の遅れで損害が出そうなときは、知事が一時的に理事長の仕事をする人を選ぶ仕組みも設けられています。
詳しく:医師・歯科医師でない理事が理事長になれる場合
- 都道府県知事の認可を受ければ、医師・歯科医師でない理事から選ぶこともできます。
- 厚生労働省の通知は、子が歯科大学などに在学中や、卒業後の臨床研修中の間、理事である配偶者などが就く場合を例に挙げています。
- 認可するかは都道府県が審査します。扱いは都道府県で異なる場合があります。
決める流れと届出(一例)
- 欠けた理事を、社員総会で補充します。
- 理事会で、理事の中から新しい理事長を選びます。
- 理事長が代わってから2週間以内に、変更の登記をします。
- 都道府県知事に、役員の変更と、登記が済んだことを届け出ます。
- 地方厚生局(保険診療を担当する国の役所)にも、開設者の変更を届け出ます。
3の期限は、本部として登記した事務所の分です。4には、新しい役員の就任承諾書と履歴書を添えます。
院長が亡くなったら、診療所はどうなる?
院長を継ぐ歯科医師がいれば続けられ、見つかるまで休止もできます。理事長が院長を兼ねていた場合も同じです。
歯科の診療所は、歯科医師に管理させなければなりません(医療法)。この管理者が、いわゆる院長です。
院長が代わったら、10日以内に知事に届け出ます。窓口は自治体で異なる場合があります。保険診療の管理者の変更も、地方厚生局に届け出ます。
院長を継ぐ歯科医師が見つかるまで、診療所を休止することもできます。休止したら10日以内に届け出ます。正当な理由なく1年を超えて休止してはならない、とされています。
見つからなければ診療所を廃止し、10日以内に届け出ます。法人も解散するなら、社員総会の決議などと、都道府県知事の認可が必要です。
遺族に死亡退職金を払える?
払えます。死亡退職金も役員の退職金で、高すぎない額なら法人の経費(損金)に入ります。
死亡退職金は、亡くなった役員に払うはずだった退職金を遺族に払うものです。
額は、生前の退職と同じく社員総会などで決めます。退職金規程があれば、規程の計算式で出した額を決めます。
高すぎる(税法の言葉で「不相当に高額」)と判断された部分は、損金に入りません。額の目安は、医療法人の退職金の相場の記事で解説しています。
損金に入るのは、原則として、社員総会などで額が決まった事業年度です。くわしくは理事長の退職金の基本の記事をご覧ください。
遺族が受け取る死亡退職金に、税金はかかる?
亡くなってから3年以内に額が決まれば、所得税ではなく相続税の対象です。相続人が受け取った分は、500万円×法定相続人の数まで非課税です。
亡くなってから3年以内に額が決まった退職金は、相続で受け取った財産とみなされます。
3年を過ぎてから額が決まると、相続税ではなく、受け取った遺族の所得税の対象です(一時所得という区分)。
法定相続人の数は、相続を放棄した人も含めて数えます。ただし、放棄した人や相続人でない人が受け取った分は、非課税になりません。
計算例(架空の数字)
最終の報酬月額100万円、役員10年の理事長が亡くなった例です。倍率2.0と置き、死亡退職金は2,000万円とします。
家族は妻と子2人で、法定相続人は3人です。全額を妻と子が受け取るとします。非課税の枠は、500万円×3人で1,500万円です。
2,000万円のうち、相続税の計算に入るのは残りの500万円です。2,000万円は計算を見せるための仮の数字で、相場や上限ではありません。
相続税は、ほかの財産との合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるとかかります。
弔慰金は?
弔慰金(お悔やみとして払うお金)は、一定の額までは相続税の対象になりません。
業務上の死亡なら、亡くなった当時の普通給与(賞与を除く毎月の給与)の3年分までです。業務外の死亡なら、半年分までです。
月額100万円で業務外の死亡なら、600万円までです(例)。超える部分や、実質的に退職金に当たる部分は、相続税の対象です。
法人側の経理の扱いも含め、顧問税理士にご確認ください。
持分ありの医療法人だと、何が違う?
理事長が持分を持っていれば、払戻しを求める権利が相続人に引き継がれると考えられます。持分なしの法人には当てはまりません。
持分は、法人から払戻しを受けたり、解散時に残った財産を受け取ったりする権利です。平成19年4月以降は、持分ありの医療法人を新しくつくれません。
持分ありの法人では、定款(法人の基本の決まり)で、社員は亡くなると資格を失うと定めていることが多いようです。資格を失った人は、払戻しを求められます(厚生労働省の旧モデル定款)。
払戻しの額は法人の財産をもとに決まり、大きくなることがあります。
持分があるかは、定款で確かめられます。対策は対象が限られるため、この記事では扱いません。
まとめ
- 理事長が亡くなっても、医療法人は原則として残ります。社員が理事長1人だけの法人は注意が必要です。
- 続けるには、新しい理事長(原則 医師・歯科医師)と院長(歯科医師)が要ります。決めたら登記と届出をします。
- 遺族への死亡退職金は原則として相続税の対象です。相続人が受け取った分は、500万円×法定相続人の数まで非課税です。
まずは、ご自身の法人の社員名簿と定款を開いて、下の点を確かめておきましょう。
確認すること
- 社員が何人いるか(理事長1人だけになっていないか)
- 理事長を継げる医師・歯科医師の理事がいるか
- 院長を継げる歯科医師の候補がいるか
- 退職金規程に、在任中に亡くなったときの支給を書いているか
- 定款に、持分の払戻しの定めがあるか
出典・参考資料(クリックで開く)
この記事は2026年11月時点の情報にもとづいています。
- 厚生労働省 医療法(第55条 解散の事由)
- 厚生労働省 医療法(抜粋・第10条 病院等の管理者)
- 厚生労働省 医療法人の機関について(医政発0325第3号)
- 厚生労働省 社団医療法人の定款例
- 厚生労働省 医療法人の理事長の要件(健政発第410号 改正文)
- 厚生労働省 医療法人運営管理指導要綱
- 厚生労働省 医療法施行令
- 九州厚生局 保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の届出手続きの流れ
- 国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
- 国税庁 質疑応答事例 死亡による退職の場合
- 国税庁 No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
- 国税庁 財産を相続したとき
- 国税庁 No.5208 役員の退職金の損金算入時期
- 厚生労働省 社団医療法人モデル定款(改正前)
- 厚生労働省 医政局委託 持分によるリスクと持分なし医療法人への移行
- 厚生労働省 出資持分のない医療法人への円滑な移行マニュアル(課題の確認)
- 厚生労働省 医療法(第8条の2 休止・第9条 廃止)
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