歯科医院の院長の退職金、年数は法人化から|開業期間の扱い
個人で歯科医院を開業し、何年かしてから医療法人にした。そんな院長ご自身の退職金は、勤めた年数を開業の年から数えてよいのでしょうか。
この記事の要点
- 年数は開業ではなく、法人の役員になった時からと考えられます。
- 役員として5年以下だと、受け取る側の税金が重くなります。
- 退職には、理事長と院長を継ぐ人が原則として必要です。
個人開業の期間も、退職金の年数に入る?
入らないと考えられます。年数は、医療法人の役員として勤めた期間です。
退職金の目安は、「最終の報酬月額×勤めた年数×倍率」で出す方法が広く使われています。この年数をどこから数えるかで、額は大きく変わります。
法人税の法令は、この年数を「その法人の業務に従事した期間」としています。個人で開業していた期間は、医療法人の業務ではありません。
受け取る側の税金でも、年数は、退職金を支払う人の下で続けて勤めた期間で数えます(国税庁の源泉徴収の説明)。
そのため、個人開業の期間は、どちらの年数にも入らないと考えられます。ご自身の法人での扱いは、顧問税理士にご確認ください。
計算例(架空の数字)
開業から20年で退職する院長の例です。最初の10年は個人開業、後の10年は医療法人の理事長でした。最終の報酬月額は100万円、倍率は2.0と置きます。
開業から数えると、100万円×20年×2.0で4,000万円です。役員の期間で数えると、100万円×10年×2.0で2,000万円になります。
目安になるのは、役員の期間で数えた2,000万円です。倍率2.0は計算を見せるための仮の数字で、相場や上限ではありません。
開業から数えた4,000万円を払う場合を考えます。差の2,000万円は、高すぎる(税法の言葉で「不相当に高額」)と判断される可能性があります。
高すぎると判断された部分は、法人の経費(損金)に入りません。
額の目安の出し方は、医療法人の退職金の相場の記事で解説しています。
詳しく:職員(歯科衛生士など)の退職金は、扱いが違います
- 個人開業のときから勤める職員は、規程に通算すると定めていれば、税金の年数に個人開業の期間を含められます。
- ただし、個人開業のとき青色事業専従者(給与を経費にしていた家族)だった人は除きます。
- 法人側も、法人化から相当の期間が過ぎた後の退職なら、通算した退職金を損金にできるとされています。
- いずれも職員(使用人)についての国税庁の扱いで、院長ご自身の話ではありません。
- これは年数の数え方の話です。職員に退職金が出るかどうかは、医院の規程によります。
法人化して間もないと、税金は変わる?
変わります。役員として5年以下だと、受け取る側の税金で2分の1の計算がありません。
退職金は「退職所得」として、ほかの所得と分けて計算します。勤続年数に応じた額を差し引き、残りの2分の1に税金がかかるのが原則です。
役員としての勤続年数が5年以下の人が、その期間について受け取る退職金は、この2分の1の計算がありません。
ここでも年数は、役員になってからの期間です。開業から長くても、法人化して5年以下なら、この扱いになる可能性があります。
1年未満の端数は、1年に切り上げて数えます。たとえば4年11か月は5年、5年1か月は6年です。
差し引ける額も、法人での年数で決まります。20年以下なら1年40万円で、10年なら400万円です。
くわしくは理事長の退職金の基本の記事をご覧ください。
個人開業のときの小規模企業共済は、どうなる?
個人の医院を廃業して医療法人の役員になると、そのまま続けることはできません。
小規模企業共済は、個人事業主や会社の役員が、ご自身の退職金を積み立てる国の共済制度です。中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しています。
中小機構は、医療法人を「直接営利を目的としない法人」としています。そのため、医療法人の役員は加入できません。
法人化して医療法人の役員になると、契約を引き継げません。個人事業の廃業として、共済金を請求する扱いです。
共済金を一括で受け取ると、退職所得の扱いになります(中小機構の説明)。受け取りの時期や税金は、顧問税理士にご確認ください。
詳しく:加入資格が残る場合
- 個人の医院を廃業せずに、医療法人の理事長にも就いた場合は、加入資格があるとされています(中小機構の説明)。
- ご自身が当たるかどうかは、中小機構か顧問税理士にご確認ください。
歯科医院の院長が退職するとき、何が必要?
理事長と院長を継ぐ人が必要です。院長は歯科医師に限られます。
医療法では、理事長は原則として、医師または歯科医師である理事から選びます。都道府県知事の認可を受ければ、それ以外の理事から選ぶこともできます。
歯科の診療所の管理者(いわゆる院長)も、歯科医師に任せなければなりません。医療法人は、この管理者を理事に加えるのが原則です。
退職金が損金になるには、実際に退職していることが前提です。理事長や院長のまま、経営の中心に残っていると、退職金と扱われない可能性があります。
実際の退職の考え方は、理事長の退職金の基本の記事で解説しています。
誰に引き継ぐかは、早めに考えておくと手続きを進めやすくなります。
まとめ
- 院長ご自身の退職金の年数は、開業ではなく、法人の役員になった時からと考えられます。
- 役員として5年以下だと、受け取る側の税金で2分の1の計算がありません。
- 退職には、理事長と院長を継ぐ人が原則として必要です。院長は歯科医師に限られます。
まずは、医療法人を設立した日と、理事長に就いた日を確かめておきましょう。
確認すること
- 医療法人を設立し、理事長に就いた年月日
- 退職を考える時期に、役員として何年になるか(5年以下かどうか)
- 退職金規程で、年数をどこから数えると書いているか
- 理事長と院長を継ぐ人(院長は歯科医師)の候補がいるか
- 個人のときの小規模企業共済の契約が、残ったままになっていないか
出典・参考資料(クリックで開く)
この記事は2026年11月時点の情報にもとづいています。
- 国税庁 税務訴訟資料(法人税法施行令70条2号の引用)
- 国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)
- 国税庁 No.5220 個人事業当時からの使用人に対する退職金
- 国税庁 質疑応答事例 個人事業当時の期間を通算して退職給与を支給する場合の勤続年数
- 中小機構 小規模企業共済 加入資格
- 中小機構 よくあるご質問 ID:2043(医療法人成りと同一人通算)
- 中小機構 【よくあるご質問】小規模企業共済の資格要件について
- 中小機構 共済金等請求・解約(税法上の取扱い)
- 厚生労働省 医療法(第46条の5・第46条の6)
- 厚生労働省 医療法(抜粋・第10条 病院等の管理者)
- 厚生労働省 医療法人の機関について(医政発0325第3号)
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