医療法人の理事長の退職金の相場|月額×年数×倍率が目安
いつか受け取る自分の退職金は、いくらくらいが普通なのか。同業の先生には聞きにくく、気になっている方も多いはずです。
この記事の要点
- 決まった相場の額はなく、「月額×年数×倍率」で目安を出します。
- 倍率は、同業で規模が近い法人と比べて判断されます。
- 高すぎる部分は、法人の経費(損金)に入りません。
医療法人の退職金に、決まった相場はある?
法令や国税庁の通達(法令の読み方を国税庁が示した文書)に、決まった額や倍率は書かれていません。
税法が示しているのは、額が妥当かどうかを見るときの物差しです。次の点などに照らして判断します。
- その役員が、法人の業務に従事した期間
- 退職の事情
- 同じ業種で、規模が近い法人の役員退職金の支給状況
物差しに照らして高すぎる部分を、税法では「不相当に高額」と呼びます。この部分は、法人の経費(損金)に入りません。
損金になる条件の全体は、理事長の退職金の記事で解説しています。
目安の額は、どう計算する?
「最終報酬月額×勤めた年数×功績倍率」で出す方法が、広く使われています。
この計算方法を「功績倍率法」と呼びます。国税庁の通達にも、この方法の説明があります。
税務大学校の研究員の論文では、税務の実務や裁判例で、この方法が定着していると述べています。
最終報酬月額は、退職の直前の月額です
退職の直前に受け取っていた、毎月の報酬の額です。
月額が高いほど、目安の額も大きくなります。逆に、退職の前に月額を下げると、目安も下がります。
年数は、法人の業務に従事した期間です
その役員が、法人の業務に従事した期間を使います。
役員になる前の期間や、法人化する前の個人開業の期間をどう扱うかは、顧問税理士にご確認ください。
功績倍率は、貢献の度合いなどをまとめた数字です
月額と年数以外の事情を、まとめて評価した倍率です。
国税庁は、法人への功績や、退職金を支払う力なども含めた係数だと説明しています。
計算例(架空の数字)
最終報酬月額が100万円、理事長として20年、倍率を2.0と置いた例です。
100万円×20年で2,000万円です。これに2.0を掛けた4,000万円が、目安の額になります。
倍率2.0は計算を見せるための仮の数字です。相場や上限を示すものではありません。
詳しく:月額が実態より低いときの、別の計算方法
- 最終報酬月額が、在任中の貢献を反映していない特別な事情もありえます。
- そのときは、同業で規模が近い法人の「1年当たりの退職金の平均額」に、年数を掛ける方法が使われることがあります。
- 国税不服審判所(税務署の処分への不服を審査する国の機関)の裁決(判断)で、この方法のほうが合理的とされた例があります。
倍率は、何倍までなら認められる?
法令に決まった倍率はなく、同業で規模が近い法人の例と比べて判断されます。
税務署の判断では、同じ業種で規模が近い法人を選び、その倍率の平均を使う方法がよくとられます。
インターネットなどで見かける倍率は、法令で決まった数字ではありません。その数字に合わせても、認められる保証にはなりません。
詳しく:公表された裁決・判決での倍率の例
- 国税不服審判所の裁決(平成19年11月15日)では、比べる法人3社の平均から、倍率は1.9とされました。裁判や裁決の例では3倍台が定着している、という主張は採用されませんでした。
- 熊本地方裁判所の判決(平成25年1月16日、税務訴訟資料 第263号-3)の例です。月額50万円×27年×倍率3.18の4,293万円が相当とされました。支給した1億円との差の5,707万円は、損金に入らないとされました。
- どちらも歯科の例ではありません。倍率は、業種や事情によって変わります。
高すぎると、どうなる?
相当とされる額を超えた部分だけが、法人の経費(損金)に入りません。
退職金の全額が認められなくなるわけではありません。ただ、超えた部分のぶん法人の税金が増えます。税務調査で指摘されると、加算税(ペナルティーの税金)もかかる可能性があります。
受け取る側の税金のしくみは、理事長の退職金の記事で解説しています。
医療法人ならではの注意点は?
額の決め方と、法人の種類による別の決まりに注意が必要です。
退職金の額をどの手続きで決めるかは、法人の決まりによって異なる場合があります。決め方は、上の理事長の退職金の記事で解説しています。
社会医療法人や、一部の認定を受ける医療法人には、別の要件があります。退職金も含めた報酬について「不当に高額」にならない支給の基準を定めていることが、認定の要件です。
医療法人の運営の決まりでは「不当に高額」と言い、税法の「不相当に高額」とは別の決まりです。
まとめ
- 医療法人の退職金に決まった相場の額はなく、「月額×年数×倍率」で目安を出します。
- 倍率は、同業で規模が近い法人と比べて判断されます。
- 高すぎる部分は、法人の経費(損金)に入りません。
まずは今の月額×年数を出してみて、どの倍率で考えるかを顧問税理士に確認してみてください。
確認すること
- 今の報酬月額と、法人で勤めた年数
- 退職までに、報酬月額を変える予定があるか
- 顧問税理士が、倍率をどう考えているか
- 自分の法人の決まりで、退職金をどう決めることになっているか
次に読む記事: 目安の額は、報酬月額で大きく変わります。医療法人の役員報酬の記事で、報酬の決め方と相場を確認できます。
出典・参考資料(クリックで開く)
この記事は2026年11月時点の情報にもとづいています。