医療法人の役員報酬に一律の上限はない|決め方と過大の基準
報酬はいくらまで上げてよいのか。だれが、どんな手順で決めるのか。顧問税理士に任せていると、ここは見えにくいところです。
役員報酬に、法律の上限はある?
税法に「年○万円まで」という一律の上限はありません。
その代わり、高すぎる部分を法人の経費(損金)に入れないルールがあります。これを「不相当に高額」な部分と呼びます。
高すぎるかどうかは、次の2つの物差しで測ります。両方で計算し、多いほうの額が損金に入りません。
| 物差し | 何と比べるか |
|---|---|
| 決めた総額との比較 | 定款や社員総会で決めた、報酬の総額 |
| 中身との比較 | 仕事の内容・法人の収益・職員の給与・同業の法人 |
例えば、決めた総額を120万円超えて払うと、その120万円が損金に入らない部分になりえます(下の計算例)。
つまり、上限は「自分の法人で決める総額」と「中身に見合う額」の2つがある、と考えると分かりやすくなります。
詳しく:一律の上限がある医療法人もあります
国税庁長官の承認を受けて、法人税の税率が軽くなる一部の医療法人があります。この法人では、役職員1人あたりの年間の給与の総額が3,600万円以下であることが、承認の条件の一つです。
税率の優遇を受けるための条件で、損金のルールとは別のものです。くわしくは用語集をご覧ください。
だれが、どうやって決める?
定款に額がなければ、社員総会で決めます。総額だけを決め、理事ごとの額は理事会で決めることもできます。
社員総会は、社団の医療法人でいちばん上の意思決定の場です。理事会は、理事全員で法人の業務を決める会議です。財団の医療法人では、社員総会ではなく評議員会で決めます。
厚生労働省の通知をもとにすると、次の流れになります。
- 定款で、役員の報酬の決め方を確認する
- 社員総会で、理事全体の報酬の総額(上限)を決める
- 理事会で、総額の範囲内で理事ごとの額を決める
- 決めた内容を、議事録に残す
総額を超えない限り、毎年の社員総会で決め直す必要はないとされています。決めた総額が、あなたの法人の上限になります。
詳しく:定款での書き方の例
厚生労働省の社団医療法人の定款例では、役員の報酬の書き方として、次の3つの例が示されています。
- 社員総会の決議によって別に定める
- 理事と監事について、それぞれの総額を「○○円以下」と定める
- 理事長・理事・監事ごとに額を定める
監事が2人以上で総額を決めた場合、監事ごとの額は監事どうしの話し合いで決めます。
決めた総額を超えると、どうなる?
超えた部分は、損金に入りません。時期のルールを守って改定しても、同じです。
期首に理事長の報酬を上げるとき、総額の見直しを忘れることがあります。次の例で確認します。
計算例(架空の数字)
3月決算の法人で、社員総会で理事の報酬の総額を「年1,200万円以内」と決めていたとします。理事長は月70万円、もう1人の理事は月30万円です。
年間の合計は、(70万円+30万円)×12か月で1,200万円です。ちょうど総額と同じです。
期首の4月から、理事長を月80万円に上げました。合計は(80万円+30万円)×12か月で1,320万円です。
総額を120万円超えるため、この120万円は損金に入らないと考えられます。中身との比較で、もっと多い額が高すぎるとされれば、そちらの額になります。
数字は説明のための例です。実際の取り扱いは、顧問税理士にご確認ください。
「高すぎる」かどうかは、何で判断される?
仕事の内容、法人の収益、職員の給与、同業の法人の報酬などに照らして判断されます。
法人税のルールでは、主に次の4つが物差しとして書かれています。
- その役員の仕事の内容(常勤か、診療や経営にどれだけ関わるか)
- 法人の収益の状況
- 職員に払っている給与の状況
- 同じ事業で規模が近い法人の、役員報酬の状況
「平均より高いから即だめ」とは限りません。一方で、収益が落ちているのに上げると、説明が難しくなります。
同業の法人の報酬は、一般には公表されていません。税務調査では、税務署が同業で規模が近い法人を選んで比べることがあります。
詳しく:公表された判決の例(歯科の例ではありません)
国税庁の税務訴訟資料 第258号-184(東京高等裁判所、平成20年10月1日に確定)は、眼科の医療法人の例です。
- 経営に関わらず、補助的な仕事だけの役員がいました。
- それぞれの報酬が、職員の最高の給与の約6.7〜7.1倍でした。
- 裁判所は、報酬に不相当に高額な部分があると判断しました。
1件の判断で、ほかの法人の適正額が決まるわけではありません。
過大と言われないために、何を準備する?
決めた手順と、金額の理由を記録に残しておくことです。
記録があるだけで認められる、というものではありません。それでも、税務調査で説明するときの材料になります。
- 社員総会で決めた総額と、その議事録
- 理事会で決めた理事ごとの額と、その議事録
- 金額の理由のメモ(診療日数や役割、法人の収益、職員の給与との比べ方)
理事長の報酬は、退職金の目安の計算にも使われます。今の報酬の決め方は、将来の退職金にもつながります。
まとめ
- 税法に、役員報酬の一律の上限額はありません。
- 社員総会などで決めた総額を超えた分は、損金に入りません。
- 仕事・収益・職員の給与・同業の法人に比べて高すぎる分も、損金として認められません。
まずは定款と、前に社員総会で決めた総額を確かめてみてください。
確認すること
- 自分の法人の定款に、役員の報酬の決め方がどう書かれているか
- 社員総会で決めた理事の報酬の総額は、いくらか
- 今年の理事全員の報酬の合計が、その総額に収まっているか
- 理事ごとの額を決めた理事会の議事録があるか
- 総額を超えそうなら、総額の見直しを顧問税理士に確認したか
出典・参考資料(クリックで開く)
この記事は2026年11月時点の情報にもとづいています。
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