医療法人の役員報酬の変更は事業年度開始から3か月以内|議事録ひな形
来期から報酬を変えたいけれど、いつまでに何を決め、議事録に何を書けばよいのか。顧問税理士に任せていると、ここは見えにくいところです。
役員報酬は、いつまでに変える?
損金に入れたまま変えるなら、事業年度(法人の1年間)の開始から3か月を経過する日までに決めます。3月決算なら6月末です。
毎月同じ額の役員報酬は「定期同額給与」として、損金に入ります。額を変えても損金に入れたままにするには、原則としてこの期限までに改定します。
期限を過ぎてから上げると、増やした分は原則として損金に入りません。くわしくは役員報酬の記事で説明しています。
新しい額は、翌月分からでもよい
期限内に決めれば、新しい額で払うのは翌月分からでも構いません。
国税庁のQ&Aに、3月決算の法人が6月25日に増額を決め、7月末の支給分から上げる例があります。4〜6月分と7〜3月分が、それぞれ毎月同じ額なら認められます。
変えない年は、どうする?
据え置く年も、その旨を決めて議事録に残しておくと、あとで説明しやすくなります。
国税庁のQ&Aには、据え置きを決めなかった年の例もあります。例年の改定時期が確認できれば、同じ額で決めた場合と同じに扱うとされています。それでも、記録があるほうが確かめやすくなります。
詳しく:期限の月数が違う法人もあります
- 法人税の申告期限を延ばす特例の指定を受けた法人は、3か月ではなく「延ばした月数+2か月」になります。
- 毎年決まった時期に改定していて、期限後になる特別な事情があると認められる場合は、その時期の改定も認められます。
どんな手順で変える?
定款を確かめ、社員総会で総額、理事会で理事ごとの額を決めて、議事録に残します。
厚生労働省の通知と国税庁の資料をもとにすると、社団の医療法人では次の順番になります。
- 定款で、役員の報酬の決め方を確かめる
- 新しい額の合計が総額を超えるなら、社員総会を招集する
- 社員総会で、理事全体の報酬の総額を決める
- 理事会で、総額の範囲内で理事ごとの額を決める
- 社員総会と理事会の議事録を作る
- 議事録に書いた支給月の分から、新しい額を毎月同じ額で払う
新しい額の合計が今の総額に収まるなら、社員総会は開かず、理事会だけで決められます。
財団の医療法人では、社員総会ではなく評議員会で決めます。
総額の決め方や、高すぎるとされない考え方は、役員報酬の決め方の記事で説明しています。
招集の通知は、いつまでに出す?
社員総会は開く日の少なくとも5日前、理事会は原則1週間前までです。日数の数え方で迷わないよう、余裕をもって出すと安心です。
- 社員総会: 議題(「理事の報酬の総額の件」など)を示し、定款で決めた方法で社員に知らせます。定款に別の定めがなければ、知らせていない議題は決められません。
- 理事会: 理事と監事の全員に知らせます。1週間より短い期間を、定款で決めることもできます。理事と監事の全員が同意すれば、招集の手続きを省いて開けます。
社員総会と理事会は、両方とも期限内に
総額と理事ごとの額を別の会議で決める法人は、両方を期限までに終えておくと迷いません。
国税庁の質疑応答事例(よくある質問への回答例)に、株式会社の例があります。法令に従い、限度額と各人の額を別の会議で決める形も、同じに扱ってよいとされています。
医療法人の社員総会と理事会も、これに当たると考えられます。顧問税理士にご確認ください。
会議を開かずに、議事録だけ作らない
厚生労働省のチェックリストには、社員総会を実際に開いているかを確かめる項目があります。議事録の作成だけで済ませていないか、という点です。家族だけの法人でも、通知・開催・採決を実際に行い、そのとおりに記録します。
議事録には、何を書く?
日時と場所、議事の経過と結果、議長の氏名など、医療法で決まった項目を書きます。
厚生労働省の通知から、社員総会と理事会に共通する主な項目を表にしました。
| 書くこと | 社員総会 | 理事会 |
|---|---|---|
| 開いた日時と場所 | ○ | ○ |
| 議事の経過の要領と結果 | ○ | ○ |
| 特別の利害関係がある人の氏名 | ○(社員) | ○(理事) |
| 議長の氏名 | ○ | ○ |
社員総会では、出席した理事・監事の氏名と、議事録を作った人の氏名も書きます。監事が意見を述べたときは、その概要も書きます。
理事会では、出席した理事と監事が署名か記名押印をします。定款で、出席した理事長と監事だけにすることもできます。
特別の利害関係がある人とは、その議題で自分が得をしたり損をしたりする立場の人です。その決議には加われません。当たる人がいるかは、顧問の専門家にご確認ください。
どこに、何年置いておく?
社員総会・理事会とも、開いた日から10年間、主たる事務所(定款に書いた本部の事務所)に置きます。
定款に従たる事務所(本部以外の事務所)を定めている場合は、社員総会の議事録の写しを、そこにも5年間置きます。電子データで見られるようにしていれば不要です。
詳しく:理事会の議事録に、ほかに書くこと
- 理事や監事の求めで招集した理事会なら、その旨
- 理事の報告や、監事の意見の概要
- 会議を開かずに書面で決議した場合(定款で認めているとき)は、決議の内容や決議とみなされた日など
議事録は、どう書けばいい?
金額、だれの報酬か、何月の支給分からかを、はっきり書きます。
決め方の記事では、総額を見直さずに理事長を月80万円へ上げた例を紹介しました。
ここでは、先に総額を見直す手順でやり直します。
計算例(架空の数字)
3月決算で、報酬を毎月末に払う法人です。理事長Aは月70万円、理事Bは月30万円でした。総額は「年1,200万円以内」です。
5月25日の社員総会で総額を「年1,400万円以内」に改め、同じ日の理事会でAを6月分から月80万円にしました。
支給は、4〜5月が月70万円、6月〜翌3月が月80万円です。それぞれの期間で毎月同じ額なので、定期同額給与の形に合うと考えられます。
年間の合計は、Aが70万円×2か月+80万円×10か月で940万円です。Bは30万円×12か月で360万円です。合わせて1,300万円で、総額の1,400万円に収まります。
数字は説明のための例です。実際の取り扱いは、顧問税理士にご確認ください。
社員総会の議事録の例
厚生労働省の通知で求められる項目に、筆者が補った項目(社員の総数、議事録署名人など)を加えた例です。定款によって、書き方が異なる場合があります。
社員総会議事録の例(架空)
医療法人○○会 定時社員総会議事録 1. 日時 令和○年5月25日 午前10時から午前10時40分 2. 場所 当法人事務所(○○県○○市○○) 3. 社員総数 3名(出席 A、B、D の3名) 4. 出席した理事・監事 理事長A、理事B、理事E、監事C 5. 議長 A 6. 議事録の作成者 A 7. 議事の経過の要領と結果 定款第○条により、出席社員の互選でAが議長となり、定足数を満たすことを確認して開会した。 第1号議案 決算承認の件(略) 第2号議案 理事の報酬の総額の件 議長は、理事長の職務が増えたことを説明し、理事の報酬の総額を年1,400万円以内としたい旨を諮った。全員異議なく、原案どおり可決した。理事ごとの額は、理事会で定める。 8. 特別の利害関係を有する社員 (いる場合は、その氏名) 9. 監事の意見・報告 (あった場合は、その概要) 以上の決議を明らかにするため、この議事録を作成し、議長と議事録署名人が署名する。 令和○年5月25日 議長 A (署名) 議事録署名人 D (署名)
理事会の議事録の例
理事ごとの額は、金額と支給を始める月を、1人ずつ書きます。支給を始める月と金額の理由は筆者の補足ですが、添えておくと、あとで説明する材料になります。
理事会議事録の例(架空)
医療法人○○会 理事会議事録 1. 日時 令和○年5月25日 午前10時50分から午前11時10分 2. 場所 当法人事務所 3. 出席者 理事長A、理事B、理事E(理事3名全員)、監事C 4. 議長 理事長A 5. 議事の経過の要領と結果 第1号議案 理事ごとの報酬の額の件 議長は、本日の社員総会で定めた総額(年1,400万円以内)の範囲で、次のとおりとしたい旨を諮った。全員異議なく、原案どおり可決した。 ・理事長A 月額80万円(令和○年6月支給分から) ・理事B 月額30万円(据え置き) ・理事E 報酬なし 理由:理事長Aは、分院の開設準備で管理の仕事が増えたため。前期の収益と、職員の給与の水準も確認した。 6. 特別の利害関係を有する理事 (いる場合は、その氏名) 7. 理事の報告・監事の意見 (あった場合は、その概要) 出席した理事と監事は、この議事録に署名する。 令和○年5月25日 理事長A(署名) 理事B(署名) 理事E(署名) 監事C(署名)
期の途中で変えても損金に入るのは、どんなとき?
役職や仕事が大きく変わったときと、経営が著しく悪化して減らすときなどです。
期限を過ぎても、次の改定なら、損金に入れたまま額を変える形が認められています。
- 役職や仕事の内容が大きく変わったとき。国税庁の通達(法令の解釈を示した文書)に例があります。医療法人に置き換えると、任期の途中で理事長が退き、別の理事が理事長になる場合などです。
- 病気などで、予定していた仕事の一部ができなくなり、減らすとき(国税庁のQ&Aの例)。
- 経営の状況が著しく悪化して、減らさざるを得ないとき。一時的な資金繰りの都合や、目標に届かなかっただけの場合は含まれません。
「今期は業績がよいから、期の途中で上げる」は、この中に入りません。
これらの理由で期の途中に変えるときも、臨時の社員総会や理事会で決め、理由を議事録に書いておきます。理由が当たるかどうかは、顧問税理士にご確認ください。
まとめ
- 損金に入れたまま変えるなら、事業年度の開始から3か月以内に決めます。
- 総額は社員総会、理事ごとの額は理事会で決めます。
- 決めた内容は議事録に残し、10年間保管します。
まずは定款と、前回の社員総会・理事会の議事録を確かめてみてください。
確認すること
- 自分の法人の事業年度はいつ始まり、改定の期限はいつか
- 定款に、役員の報酬の決め方がどう書かれているか
- 新しい額の合計が、社員総会で決めた総額に収まるか
- 社員総会と理事会を実際に開き、議事録を作っているか
- 議事録に、金額と「何月の支給分から」を書いたか
- 議事録を、主たる事務所に10年間置いているか
出典・参考資料(クリックで開く)
この記事は2026年11月時点の情報にもとづいています。
記事の誤りに気づいた方は、こちらからお知らせください。